わたしの1日は、保健室に始まって保健室で終わる。

保健委員は女の子がやる、というのがこの学校の掟らしいときいた。それはずっと前にまだこの学校の女子生徒が1人だったとき、その女子生徒が保健委員だったからという安直な理由だ。
あと、保健室の先生が理事長だから、女子生徒がいまだに少ないこの学校になれてもらうためのコミュニケーション機会とか、精神ケアだとか、いろいろあるらしい。

わたしはその女子生徒さんに感謝しないといけないなあ。


放課後は夜遅いし危ないから、という理由で毎日先生が送ってくれるようになった。
わたしは学校のこと、実家の家族のこと、好きなもののこと、好きな男の子のこと、たくさんはなしをした。

わたしからはなすばかりだった、春。
実家で先生のことが気になって仕方なくって早くおわれと願った、夏。
先生が忙しすぎて全然会えなかった、秋。
我慢してたけど想いが溢れて止まらなかった、冬。
先生との距離感がわからなくてもやもやした春。
わたしのことを今まで以上に先生が大切にしてくれるようになった、夏。
先生が少しづつ先生のことをはなすようになってくれた、秋。

先生がわたしにキスしてくれた、冬。

夢かと思って何度も目をこすってあかくはれてしまったわたしを、かわいいと言った先生は泣きそうな顔をしていた。

寒い空気とあたたかい吐息と、白色の息に隠れてこの時間がずっと続けばいい。

わたしが生きてきた世界はちゃんと美しかったから、わたしはあなたの罪になりたい。

わたしが卒業したら、先生はわたしを忘れちゃうのかと思うと息をするのがつらくなった。

わたしのこと、いつまでも好きでいくてもいいから覚えていて、ずっと、一生忘れないで。

先生を愛したわたしがいたこと。


「先生以外、いりません」

「お前の世界は狭い」

「…先生の世界が広すぎるんです」


抱きしめた腕に力を入れた。

放課後の保健室で嫉妬の渦に飲み込まれた、先生に会って3回目の春がきた。
わたしは先生に愛してもらうだけじゃ足りなくなってしまった。

先生、わたしね、本当は先生に関わるすべてをなくしたかったんだよ。でもそんなことしたら先生はわたしを怒るでしょ?憎むでしょ?わたしは先生に嫌われちゃうんでしょ?先生に嫌われたら生きてく意味がないの。

だから、これくらいで勘弁してあげるよ。


先生のスマートフォンから振動音がきこえて、わたしはその表示画面を横目でみた。

思ったより早かったなあ、と思いながら、スマートフォンを操作して“実家”と表示されている着信を拒否した。


「誰だった?」

「さあ、知らない番号からでした。話の邪魔なので電源を切っておきますね」

「……見せろ」

「いやです、かけ直さないでください、ごめんなさい、」

「…なんでこの番号なんだ」

「ごめんなさい、先生、ごめんなさい、ごめんなさい、」

「謝られてもわからんだろ、怒らないから言え」

「先生、ごめんなさい、先生、わたし、あなたのお姉さんを、」


殺しました。


無音放送のような空気のなか、わたしは小さく口を動かした。身体は固まってしまって動けなかった。人をひとり殺めたのだ、そりゃ震えるに決まっている。

先生はわたしの言葉をみて、困ったように笑った。


「なんだ、奇遇だな。俺もお前の兄を殺したよ」
  

そういえばさっきからわたしのスマートフォンにも、着信がたくさんきていて、変だなあとは思っていた。なんだ、先生もわたしと同じ気持ちでいてくれたんだね。


先生大好き、大人になんかなりたくないよ、わたしと先生だけの世界でいいよ、



12*08*03

地獄先生//相対性理論



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